<CEDEC2003 レポート>
●●●●●部 Bulk
◎オンラインゲーム運営の現実
(株)ガンホー・オンライン・エンターテイメント 堀 誠一氏
オンラインゲーム運営の現実について、ガンホーが現在運営しているMMORPG『ラグナロク・オンライン』を
元にパブリッシャーとしてのオンラインゲーム運営の注意点などについて。
■ ラグナロク・オンラインとは
昨年初頭にβテストを経て今年1月に正式サービスを開始したPCのオンラインゲーム。
日本での述べ登録会員数は2003年8月現在で29XXXX人、
内2003年8月度の課金ユーザー数は18XXXX人、
サーバへの瞬間最大接続人数は74XXX人
■ オンラインゲームのパブリッシャーとは
実際のゲームのクライアントの開発、サーバの設計をするデベロッパーとは
違い、デベロッパーから受けたゲームを実際に保守、運営をしていく業務。
主にオンラインゲームのパブリッシャーの業務内容は、
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・・等があげられます。
ラグナロクオンラインは、実質日本で一番多いユーザーを抱えるオンラインゲームであり、
正式サービスを開始した今年1月からユーザー数が急激に増加している。
■ ユーザー数が急激に増えた際に起こる現象
ユーザーのオピニオン(意見)と運営側のサポート体制にずれが生じる。
オピニオンの規模 |
(小)
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(中)
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(大)
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オピニオンの内容 | ゲームのパラメータ等に不満 隣人とのトラブルの発生 |
システムの発展性に不満 ゲーム内のモラル低下 |
運営形態への不満 ゲーム内の経済、治安の悪化 |
運営側の体勢 | クライアントとの通信環境の チェック |
サーバ負荷の対処、 ゲームバランス調整 |
ユーザーの犯罪的行為への 対処 |
■ システム性能の課題
サービス開始時の想定と実際に運営を開始してからの設計ミスから下記のような問題が
発生する。
起こりえる現象
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問題点
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内容
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予想以上のユーザー増加 | サーバ負荷の発生 | ・サーバ間通信の増大 ・Objectの増大 ・分割できないシステム構成の問題 |
運用中に出る新たな問題 | メンテナンスビリティ | ・データログ管理、事後参照時の問題 ・困難なシステムのフルセパレート化 ・ローカライズリリース管理 |
運営コストの圧迫 | 増設コスト | ・増設(プロジェクト、P/Lへの影響) ・人員増加 ・システムの拡張 |
■ インフォメーションリリースの限界
オンラインゲームでパブリッシャー側からユーザーへのアナウンスをする際に
起こる注意点、問題点。
・システムバグの秘匿 → 公開による被害の増大を防ぐ。(混乱防止)
・不正ユーザー対策 → チート、クラッキング (バグの悪用防止)
・パブリッシャーとしての問題 → バグの確認が取れないうちは公開出来ない。
(デベロッパーにバグを伝えられない)
・デバッグボリューム → 発生事例の多様化により、デバッグが追いつかない。
・実装予定の新仕様の秘匿 → 仕様変更の先行取得によるユーザー格差を無くす。
■ インターネットコミュニケーションの揺れ
ある一定のユーザー数を越えると(ゲームによる)ユーザー間でのコミュニケーションに
大きな揺れが起きる。一度揺れてしまったユーザーコミュニケーションはもはや
パブリッシャー側で収束することは不可能である。
システム性能の課題 クラッキング インフォメーションリリースの限界 |
ゲーム内のユーザーモラルの低下 (マイナススパイラルエンジン化) |
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| ↓ |
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・ユーザー同士の衝突 ・嘘、煽動の多発 |
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ユーザーのフラストレーション増加 (マイナススパイラルの発生) |
↓ |
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コミュニケーションの揺れ | ||||||||||||
・ユーザー数が少ない場合 ゲーム世界の衰退
・ユーザー数が多い場合 運営側の崩壊
コミュニケーションの揺れを起こさなければ、さらに1段階上のユーザー数を取れるはずである。
■ コンテンツ開発段階での課題
☆開発から運営への引継ぎが大事
・スタッフ間の情報共有は大事である。(開発、カスタマー、営業)
・開発リソースの運営リソース化の恐れ。(モチベーションの低下、スキルの停滞)
☆トラフィック問題、セキュリティー対策
・対クライアント部分よりも、サーバ間通信に着目すること。
・ゲートごとにトラフィックを犠牲に出来ない場合、データの保全対策をとる。
☆システムの規模、増設性
・リダンダント化かフルセパレート化の設計をしっかりと建てる。
・最近のトレンドはMMOではなく、MMO+MO(少人数空間)である。
☆クラッキング対策
・最近のクラッカーはインターネットで情報を共有している。(クラッキング速度の増加)
・パケット、クライアント内のメモリの解析対策。
・マクロ化出来ない(する意味のない)システム設計が必要である。
☆パッチへの過信
・パッチサーバの増設による運営コストの増大を防ぐ
・ナローバンドユーザーへの考慮
☆デバック環境の整備
・アップデートリリースを犠牲にしないと出来ないデバッグ現状。
・リリースタイミング、デバッグスケジュールの検討は大事。(ユーザー離れ対策)
■ 運営開始後の課題
運営を開始した後のパブリッシャーとしての新たな課題も必ず生まれる。
☆開発スタッフの課題
ヘロインウェアの恐怖 | ・開発スタッフが1タイトルへ固執してしまうケース |
更新性とゲームバランスの両立 | ・運用フェイズではゲームバランスがコンテンツを支配。 アップデートを慎重に行わなければならない。 |
運営ドキュメントの整理 | ・開発ノウハウ、運用ノウハウをバージョン化して管理 (アップデートの度に変わる仕様への対策) |
☆ゲームマスター(GM)
信頼性の高いGMの育成 | ・ユーザーと最も近い位置にいる為、モラルの育成と プロとしての職務への認識を持たせる。 (優越感からくる情報漏洩等を防ぐ) |
2極化されるべきGM | ・ゲーム内における演者「キャスト」とシステム守護の 「ガーディアン」の2極に今後は分かれていくと予想される。 ・これからは世の中におけるGMのキャリアパスの整備が必要。 |
システム守護である「ガーディアン」は、安定した職種であるが、
GMのうち、キャストは将来はアイドルのような立場になるかもしれない。(競争の激しいポジション)
☆カスタマーサービス
ユーザーからのQに対してAを公開出来ないケース | ・システムの秘匿、アップデートの秘匿など。 ・バグの問合せに対する返答。 |
☆オピニオンリサーチ
ユーザーの持つファンサイトはユーザーの考えのバロメータ | ・大きなファンサイトであればあるほどユーザーの 思考が読み取れる。 |
ユーザーの愚痴であっても大事な参考資料 | ・直接カスタマーに届かない細かい意見を収集。 |
噂の活用 | ・バグ情報など、いち早く確認できる可能性。 |
自社に掲示板を持つことは、管理面では大変であるが、オピニオンリサーチを取るにあたっては
最適な場所である。
☆今後の問題点
クラッキング | ・不正行為から自社サーバを自衛する。 |
RMT対策 | ・リアルマネートレードの抑制。 法的な手段は取れない為、パブリッシャー側からは RMTサイトなどの閉鎖願いを出さなければならない。 |
ゲーム依存症 | ・オンラインゲームの固執ユーザーに対する警鐘。 |
警察機関の現状 | ・ハイテク対策室は各県の本庁にあるが、地域差があり 人材が不足しているのが現状。 ・被害にあったユーザーの住んでいる地域が所轄になるが、 1件の訴訟を起こすのに3ヶ月掛かったケースもある。 |